てんたま外伝「Again」第4話(てんたまサイドストーリー)

第4話 再会

この日、奈菜は葵に呼び出され、「アルビオレ」という名のレストランへ向かっていた。
用件は会わせたいひとがいるということだった。
奈菜は会う相手が誰なのか分からなかった。
連絡をもらったとき、葵に尋ねてみたのだが、「会えば分かるよ」としか言われなかったからである。
これから会うひとのことを考えているうちに、歩くスピードが自然と速くなり、気が付けば「アルビオレ」と書かれた看板のある店にたどり着いていた。
奈菜は店内に入ると、葵の姿を探すため、周囲を見渡した。
「おーい、奈菜。こっちだよ」
とそのとき、右手の方向から葵の声が聞こえた。
「ああっ!」
奈菜はそちらに顔を向けたとたん、口もとに手を当てた。
「千夏さん!花梨ちゃん!それに、椎名さんに貴史さんまで!」
懐かしさに後押しされ、みんながいるテーブルに駆け寄った。
「奈菜!久しぶりですの!」
いち早く花梨が満面の笑みを浮かべながら、奈菜に抱きついた。
「花梨ちゃん、元気だった?」
「花梨は元気ですの。奈菜も元気でしたか?」
「うん」
奈菜は笑顔で答えた。
「ほんと久しぶりね、奈菜」
次に千夏が奈菜に声を掛けた。
「お久しぶりです、千夏さん」
「奈菜は全然、変わっていないわね」
感慨深げにつぶやく。
「千夏さんこそ・・・」
千夏の優しいまなざしに、奈菜はそうつぶやいた。
「さ、とりあえず座って。今日は積もる話もあると思うから、ゆっくり話しましょう」
「はい!」
奈菜は花梨の横に腰を降ろした。
「こうしておまえたちとまた会えるなんて、思ってもみなかったよ」
貴史は反対側に並んで座っている花梨、葵、奈菜をひとりずつ見ながら言った。
「ボクもだよ。まさか貴史たちのいる町の近くに来られるなんて、思っていなかったから」
葵が貴史の言葉に答える。
「すごい偶然よね」
千夏はそう言って、レモンティーのグラスをかきまぜた。
「運命の再会ってやつだな」
「うん、そうね。そう言っても、おかしくないわよね」
椎名の言葉にうなずく。
「だいたい、天使と出会うってことじたいが運命的よね。だから、今日、こうしてみんなと再会出来たのも、運命かもしれないわね」
「そうかもしれないな。あれから、もう2年も経つんだよな」
椎名がぽつりとつぶやく。
「そうですね」
奈菜の頭の中で当時のことが甦った。
2年前、見習い天使だった奈菜、花梨、葵の3人は卒業試験の課題をこなすため、この人間界にやって来た。
そして、そこで知り合ったのが千夏、椎名、貴史の3人だった。
奈菜は千夏、花梨は椎名、葵は貴史のもとに身を寄せ、卒業試験の課題でもある「ひとりの人間を幸せにすること」を果たそうとした。
その結果、様々な思いが複雑に交差し、貴史と千夏が結ばれ、葵と奈菜は無事、卒業することができた。
しかし、花梨だけは2ヶ月という短い時間のなかで、椎名の優しさに惹かれ、天使になる夢と引き換えに、この地上界に留まった。
奈菜は花梨のとった行動に少し戸惑ったが、本人が選んだ道なので、新たな一歩を心から祝福していた。
「この2年間で、俺たちもだいぶ変わったよな。千夏と椎名は大学に入ったし、俺は専門学校に通いだしたし、花梨ちゃんも花屋でバイトを始めたし、葵と奈菜ちゃんは天使になったし、みんなそれぞれの道を歩き出したんだよな」
貴史がしみじみと言う。
「貴史、変わらないものもありますの」
そのとき、花梨が口をはさんだ。
「それはなんだい、花梨ちゃん?」
「それは花梨たちの絆ですの。花梨たちの絆だけは、どんなに時間が流れても、変わらないですの。花梨はそう信じてますの」
「フフフ、いいこと言うわね、花梨ちゃん」
その言葉を聞いた千夏の表情から笑みがこぼれた。
「確かにそうだな」
「ああ、花梨のいうとおりだ」
貴史と椎名もうなずいて、同感の意を示す。
「そういえば、奈菜と葵ちゃんは今回が天使になっての初仕事なんでしょ。調子はどう?」
千夏はふたりを交互に見ながら尋ねた。
「ボクは大丈夫なんだけど、奈菜が・・・」
「葵ちゃん!」
奈菜は控えめながらも、強い口調で葵の会話を遮った。
「私も大丈夫です」
自分自身に言い聞かせるように答えた。
みんな、月日の流れに乗って、変わっていた。
それぞれの進む道のために。
だから、自分もこのままでいてはいけない。
変わらなくてはいけない。今、ここにいる自分は見習い天使ではなく、天使なのだから。奈菜は焦燥感にかられながら、そう思った。
「そう・・・」
千夏は奈菜に何かあることを悟ったが、あえて自分から聞き出そうとはしなかった。
「奈菜。さっき、花梨ちゃんも言ったけど、私たちの絆はどんなことがあっても変わらないわ。だから、何かあったら、ひとりで苦しまずに、私たちに相談してほしいの。だって、今の幸せがあるのは全部、奈菜のおかげなんだから、その分、奈菜にも幸せになってもらいたいの」
「千夏さん・・・」
千夏の穏やかなまなざしが、奈菜の心で渦巻いていた焦りをかき消した。
「そうですの。奈菜はひとりじゃないです。みんながついているです」
「そうそう。俺たちでよかったら、力になるよ。俺も奈菜ちゃんには世話になったからな」
「今更、遠慮するなんて水くさいよ。何かあるなら、遠慮しないで相談してくれ」
花梨、貴史、椎名も口をそろえて、賛同の声を上げた。
「みなさん・・・ありがとうございます」
奈菜は改めて自分がひとりじゃないこと知った。
───私にはみんながついている。だから、無理して変わることなんてないんだわ。
奈菜は素晴らしい仲間との出会いをくれた運命に、心から感謝した。