楽しいはずの冬休みは、初日から最悪の展開を迎えていた。
風邪という病魔によって。
智也はベッドの上で、自分の運のなさに気落ちしていた。
───よりによってこんなときに・・・
学校のあるときは、風邪などひいたことなかったのに、休みに入ったとたん、こうなってしまった自分が悲しかった。
信がこのことを知れば、きっと「日頃の行いのせいだ」というに違いない。
何しろ、本人ですら、そうかもしれないと疑ってしまうのだから。
「智也君、入るね」
部屋をノックして、小夜美が中に入ってきた。
「昼ごはん出来たけど、起きれる?」
「ああ、大丈夫だよ」
智也はおぼつかない足取りで起き上がると、小夜美と一緒に台所へ向かった。
「時間がなかったから、有り合せで作ったけど、その代わり夕ごはんは豪勢にするから許してね」
「これだけでも十分だよ。ありがとう、小夜美さん」
智也は、テーブルに並べられたそばとおかゆを、嬉しそうに眺めた。
「ごめん、小夜美さん。今日はデートなのに、こんなことになってしまって・・・」
「気にしなくてもいいわよ。病気なんだから仕方がないよ。それより冷めないうちに食べて」
小夜美は智也の横に座って、にっこりと微笑んだ。
「うん、いただきます」
智也は手を合わせて、そばを口に入れた。
小夜美の料理がおいしいことは知っていたが、今日の料理はまた格別の味がした。
「ん、俺の顔に何かついてる?」
智也は小夜美の視線を感じ、はしを持つ手を止めた。
「ううん、いい表情になってきたなって思ったの」
「何だよ、それ」
「智也君が私に対して遠慮しなくなってきたってこと。付き合い始めた頃の智也君ってば、どことなく私と距離を置いたでしょ。でも、今の智也君を見ていたら、それがなくなってきたなって思ったの」
「そんなこと・・・!」
慌てて否定しようとした智也の言葉を小夜美が遮った。
「ウソ。智也君は彩花さんのことが気になって、私との距離を置いていたんでしょ」
「・・・」
本心を見抜かれて、智也は言葉を失った。
「智也君・・・」
小夜美は、そっと智也の頭に腕を回して抱きしめた。
「無理しなくてもいいよ。智也君が彩花さんのことを忘れられないは知っているから。私はそんな智也君が大好きだから、気にすることなんかないわよ」
「ごめん・・・」
智也は計り知れないほどの優しさに、涙が出そうになった。
───俺のそばにいてくれるひとが小夜美さんでよかった・・・
普段は神様など信じていない智也だったが、このときばかりは小夜美と会わせてくれたことに深く感謝した。
しかし、このときある疑問が影を落とした。
他の女性のことを気にしている自分に、小夜美を愛する資格などあるのか?
その疑問はうねりをあげ、智也の心を飲み込み、罪悪感という大海原へ沈めた。
なんとも言えない息苦しさを覚える。
「謝らなくてもいいわよ」
温かいその言葉が、おぼれていた心を救った。
小夜美は智也を離すと、軽く唇にキスをした。
年上の女性の可愛らしい奇襲攻撃に、智也は驚きのあまり、固まってしまった。
「どう、元気でた?」
「・・・うん」
智也は小さくうなずいた。それを見て、小夜美が嬉しそうに笑った。
「ねえ、智也君。このそばにはある思いが込められているの。何か分かる?」
「うーん、何だろ」
「それじゃ、これが今日の宿題ね。期限は今度のデートのときまでだよ。ちなみに、もし分からなかったら、デートの費用は全部、智也君のおごりだからね」
「ちょっと待った。いきなり宿題なんてずるいぞ。せめて、ヒントを教えてくれ」
智也は慌ててヒントを要求した。
「それじゃ、最大のヒント。そばの花の思いと私の思いは同じなの。それ以上のヒントはなしね」
と言って小夜美はウインクをした。