変わらない景色の中に、変わらない自分がいる。そして、すぐそばに変わらない幼なじみがいる。
すべては智也と会えなくなった“あの日”から始まった。
彩花はずっと智也をみつめていた。
朝も昼も夜も。
気が付けば、彼の様々な表情を目に焼き付けていた。
もうひとりの幼なじみである唯笑に冗談を言って笑う智也。
唯笑の突拍子もない発言に慌てる智也。
クラスメートの信にからかわれて怒る智也。
そして───決まった日に寂しげな表情を浮かべる智也。雨の降る日だけに見せるその素顔が、一番強く脳裏に残っていた。
今日は水色の空を灰色の雲が覆い尽くし、小さな水玉が藍ヶ丘町を濡らしていた。
智也は悲しげなまなざしを窓に向けていた。
そんな横顔が彩花の胸を苦しくさせた。
智也はずっと自分を責め続けている。自分がいなくなったことに対して・・・
「智也は悪くないよ・・・あれは事故だったんだよ・・・智也が苦しむ必要なんてないんだよ・・・」
彩花は届かない言葉を口にした。やりきれない思いが急速に膨らんでいく。
「智也、私はいつもそばにいるよ・・・近くにいるよ・・・」
彩花はそっと手を伸ばして、智也の肩に置こうとした。
「・・・」
あと1センチというところで不意に手を止めた。所在を失った右手がかすかに震える。
彩花はその手を引いて胸に当てた。
智也に触れたい。
智也の温もりを感じたい。
自分の温もりを伝えてあげたい。
しかし、それはもう叶わない。だから、彩花は触れなかった。余計、自分を苦しめるだけだから・・・
さっき口にした言葉も伝えてはならない。無論、伝えることなど出来ないが、仮に伝えられたとしても、それは許されない行為だった。そんなことをすれば、智也の心が色あせた過去に縛られてしまうからだ。
───こんなにそばにいるのに、何もしてあげられないんだよね・・・
彩花は己の無力さを痛感せずにはいられなかった。
どんなに近づいても、ふたりの距離は決して変わることがない。互いの存在する世界が違いすぎるが故に。
今の彩花に許されていることは、智也に気付かれないように、ただ見守ることだけだった。
一滴の涙がこぼれ落ちた。泣いてはいけないと思ったが、そう思うほど涙はとめどなく流れた。
「神様・・・どうか私の代わりになれるひとを、智也と会わせてください・・・」
彩花は祈りを捧げた。いつかその日が訪れることを信じて・・・